スタッフだより

第119回 プラネタリウム「ブラックホール合体!重力波」

2017年12月1日

今回のスタッフだよりは投影中のプログラム「ブラックホール合体!重力波」の企画を担当した石坂学芸員に話を聞きました。

「重力波」って何ですか?

 よく聞かれるのですが、有名なマンガに出てくる「●め▲め波」とは、全く関係はありません。 実は日本語で「重力波」と書いた場合、2つの種類があります。
 ひとつはとてもなじみ深いもので、地球の重力が要因となる海や空気の波です。英語では “gravity wave” と書きます。
 もうひとつが、波は波でも全く感じることができないもので、今回プラネタリウムで取り上げている「空間そのものの波」です。英語では “gravitational wave” と書きます。

空間そのものの波?

 重力波が何なのかを説明するためには、まず重力とは何かから始める必要があります。
 重力は万有引力ともいい、重さを持っている物体が(私たち自身の体も含め)すべて持っていて、互いに引き合う力です。地球のまわりを月が回るのも、太陽のまわりを惑星が回るのも、星が無数に集まって銀河を形作るのも、すべて重力の作用です。
 でも、ふしぎだと思いませんか?星どうしの間、太陽と地球の間は真空で、何もありません。いったい何が引っ張る力を伝えているのでしょう?

 今からおよそ100年前、1915年、アインシュタインは「重力は空間のゆがみによって伝わる」という考えを提唱しました。これが「一般相対性理論」です。一般相対性理論によると、ものがあればまわりの空間がゆがみ、そのゆがみの影響が他の物体に引力として働くのです。
 イメージしづらいので、輪ゴムを使って模型を作ってみました(もちろん実際の空間は、輪ゴムのように目に見える“ひも”でできているわけではありません)。
 この模型では、空間を上下・左右・前後につながった輪ゴムの格子で表します。模型は簡単のため、上下を省いて2次元の空間にしています。

 物体があると、まわりの輪ゴムの格子がゆがんで変形します。変形した輪ゴム格子の先に別の物体があれば、ゆがんだ格子の方に引っ張られるでしょう。この引っ張られる力を私たちは「重力」と感じているのです。
 アインシュタインは、空間が輪ゴム格子と同じような性質を持っていると考えました。
  さて、この輪ゴム格子を弾いてみましょう。 すると格子(空間)のゆがみが波として伝わっていきますよね。さっき、「空間のゆがみが重力である」とお話しました。つまり、重力が空間そのものの波として伝わったことになります。これが重力波なのです。

ノーベル賞を取りましたね

 はい、2017年のノーベル物理学賞は、この重力波の直接検出に貢献した3人の科学者が受賞しました。 
 検出は2015年9月(発表は2016年2月)のことでしたが、たった2年での超スピード受賞です。重力波は全く感じることのできない、捉えることが奇跡と思えるほどの弱い弱い波ですが、物理の世界に対しては、ものすごくインパクトが強かったのです。

なにがすごいのですか?

 重力波はアインシュタインの一般相対性理論が予言していたものです。一般相対性理論が正しければ必ず重力波は存在する、逆に言えば、重力波を捉えられれば一般相対性理論が正しいことを証明できる!ということになります。
 多くの物理学者が重力波を捉えようと試みましたが、重力波はとても弱いので、100年間、だれも重力波の直接検出に成功しませんでした(※間接的に重力波の存在を証明した2人の天文学者が1993年にノーベル物理学賞を受賞しています)。
  一般相対性理論の提唱からちょうど100年目、ついに「アインシュタインの宿題」が解かれたのです。
 さらに驚くべきことがありました。
 2015年9月にアメリカにある重力波観測所LIGOが捉えた重力波は13億光年かなたで起きた2つの大きなブラックホールの合体によって発生したものでした。ブラックホールは空間が極限までゆがめられた場所ですが、1個つくるだけでも大変なのです。そんなブラックホールが2個、日本列島の端と端ぐらいのところにあって合体する、なんていう状況は重力波を追い求めていた物理学者でさえ想定外でした。
 ブラックホール合体による重力波は、この2年間に4例も検出されています。 宇宙ではとてつもない状況が人知れず頻繁に起きていたのです。

日本には重力波を検出する装置は無いんですか?

 もちろんあります。岐阜県の神岡鉱山跡地に設置されたKAGRAが2019年の観測開始を目指し準備追い込み中です。
 KAGRAの始動で、LIGOによって切り開かれた「重力波天文学」がさらに発展していくことでしょう。とても楽しみにしています。

最後にひとこと


石坂千春学芸員

「ブラックホール合体!重力波」を企画したのは、ノーベル賞の発表があるより1年前、2016年12月でした。2017年のノーベル物理学賞は、きっと「重力波」が取るに違いない、と読んでいたのですが、ほんとに受賞してよかったです。
 受賞のニュースは制作の途中で入ってきましたが、その直後、こんどは「中性子合体による重力波を捉え、世界中の天文台が追跡観測に成功した」というニュースも飛び込んできました。こうした最新ニュースも盛り込んで制作しました。
 重力波はとても難しいですが、このプログラムをご覧いただき、今、物理学や天文学の世界で起きている興奮の波を少しでも感じていただければと思います。

石坂千春のホームページ


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