スタッフだより

第34回 「はやぶさ」遂に地球へ帰還

2010年6月2日

最近、新聞やテレビのニュースでご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、今月13日(日)に小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還することが決まりました。 今回は、その「はやぶさ」をテーマにした、全天周映像「HAYABUSA -BACK TO THE EARTHー」の制作にたずさわった、飯山学芸員にインタビューしました。
(追記)小惑星探査機「はやぶさ」は、2010年6月13日(日)に地球へ帰還しました。

まず、「はやぶさ」について教えてください

2003年5月に日本から打ち上げられた小惑星探査機です。「はやぶさ」の任務は「イトカワ」という名の小惑星に向かい、その表面の岩石の破片を採取して地球に持ち帰ることです。その長い旅を成し遂げるため、イオンエンジンという新しいタイプのエンジンを搭載したり、地球との通信に時間のかかる遠い場所にいてもその場で状況を判断して探査機を動かすことができるプログラムを組み込んだり、地球の10万分の1というごく弱い重力環境での離着陸と岩石採取を行うなど、数多くの世界初の技術を試験しています。
当初は2007年6月に地球に帰還する計画でしたが、途中でのトラブルのため帰還を延期することになりましたが、2010年6月13日(日)にいよいよ地球帰還の見通しです。

「はやぶさ」が地球に戻ってくると、どういう結果をもたらすのでしょうか

はやぶさのプロジェクトマネージャーである、JAXAの川口先生は、「太陽系大航海時代」がこれからやって来るとおっしゃっておられます。これからの数百年間、太陽系内の他の天体へ行って帰ってくるという宇宙ミッションはどんどん行われることでしょう。「はやぶさ」が地球へ無事に帰りつく、ということは、まさに太陽系大航海時代の幕開けを告げるものとなるでしょう。
はやぶさの帰還カプセルに、イトカワの岩石の破片が入っているかどうかは、実のところ現段階でははっきり分かりません。しかし、仮に帰還カプセルが空っぽであったとしても、はやぶさの成果が色あせてしまうわけではありません。
 はやぶさのサンプル採取の工程を再検討し、改良した探査機が次の小惑星を目指すに違いありません。はやぶさの最大の成果は、地球の重力圏を脱出し、他の天体(月は地球の重力圏内の天体です)へ到達し、再び地球へ帰ってくることなのです。
仮に、首尾よくサンプルが取得できていた場合、そのサンプルは地上の研究設備で精密に分析されます。はやぶさの搭載カメラによる探査により、イトカワの岩石は、LL5もしくはLL6という分類の隕石と同じ種類の岩石であることが判明しています。実際にサンプルが分析されれば、やはりイトカワの岩石がLL5もしくはLL6タイプの隕石と同質であると断定できる強力な証拠が得られるでしょう。万一、分析の結果、LL5やLL6タイプの隕石とは全く違う種類の岩石であったとしたら、それは小惑星や隕石の研究に、新しい大きな謎を投げかける、大変ワクワクする研究結果になりますが、その可能性はほとんど無いと思います。また、小惑星の表面には空気も水も無いため、地球の地表で起こるような岩石の風化作用は起こらないのですが、宇宙空間特有の「宇宙風化」という現象があることが指摘されています。はやぶさの持ち帰ったサンプルを、地球にある隕石標本と比較することで、「宇宙風化」という現象についても新しい知見が得られることが期待されます。

全天周映像「HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-」

旅立ち
2003年5月、「はやぶさ」を載せたM-V (ミュー ファイブ)ロケットは、鹿児島県の内之浦より打ち上げられました。物語の冒頭に描かれるこのシーンは、まさに全天周映像の特性がよく分かる場面です。地球の巨大さとロケットの小ささ、そして何よりも、ドームでしか得られない圧倒的な臨場感をお楽しみください。

はやぶさ
全重量500kgは小型の軽自動車と変わらないくらい、太陽電池パネルの端から端まででも5mしかないコンパクトな探査機です。しかしその小さなボディには、探査機を自由に動かすロケットエンジンや姿勢制御装置、小惑星を調査するためのカメラや岩石採集装置などがぎっしりと詰め込まれています。

そして普通の人工衛星と何より違うのは、いわば独立したロボットのような存在であることです。「はやぶさ」は地球との通信に片道15分以上かかる遠方で探査活動を行います。そのために、周囲の状況を地球で判断してもらって指令を受けるだけでなく、自分でその場で判断を行えるようなコンピュータとプログラムが搭載されているのです。

小惑星イトカワ
はやぶさが目指した目的地は、イトカワという名前の小惑星。その名は日本のロケット開発の先駆者である糸川英夫博士にちなんでいます。イトカワは、一番長いところでも500mほどの長さしかありません。空港の滑走路よりも断然短いのです。そんな小さな星は、地球からの観測では表面の様子など全く分かりません。

「はやぶさ」が撮影したイトカワの表面は、それまでにすでに探査が行われていた数10km程度のサイズの小惑星と比較しても全く違った光景でした。

着陸
地球の10万分の1程度のわずかな重力しかないイトカワへの着陸は、実際には非常にゆっくりと行われました。はやぶさの降下速度は秒速6cmほど。もちろん作品中では、早回しのようにすいすいと降下していきますが、着陸前の手に汗握る緊張感はそのままに感じられることでしょう。

最後にひとこと


飯山青海 学芸員

「はやぶさ」は太陽系大航海時代の幕開けと呼べる画期的なプロジェクトです。 かつて日本の宇宙開発の歴史において、これほど日本が世界をあっと驚かせたプロジェクトは無いといっても過言ではありません。その「はやぶさ」プロジェクトを一人でも多くの人に知ってもらいたいと思い、「HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-」の制作に携わりました。いままで「はやぶさ」をご存じなかった方にこそ、是非この全天周映像をご覧頂きたいと思っています。


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