スタッフだより
第149回 全天周映像作品「ブラックホールを見た日~人類100年の挑戦~」
2021年7月7日
今回のスタッフだよりは、投影中の全天周映像作品「ブラックホールを見た日~人類100年の挑戦~」の企画制作を担当した石坂学芸員に話を聞きました。
ブラックホールって、見えるんですか?
見えるようになってきたんです!
ブラックホールは非常に重力が強く、周りの空間がとても歪んでいるので、光が出てこられません。「空間が歪む」というのは、空間が見かけよりもずっと伸びてしまっている状態です。ブラックホールのすぐそばでは、光が進むのに無限といってもいい時間がかかります。だから「光れない」、文字通り、真っ黒な天体です。目に見える光だけじゃなくて、電波や赤外線、紫外線、X線などあらゆる電磁波を出さないので、本体そのものを見る=観測することは、原理的に不可能です。
それなのに2019年、そのブラックホールが「直接見えた」と発表されました。
「ブラックホールを見た日~人類100年の挑戦~」は、このブラックホールの直接観測に挑んた物語です。
「ブラックホールが直接見えた」というのは、どういうことでしょうか?
ブラックホールそのものが見えなくても、ブラックホールがそこにある、ということは間接的には分かっていました。
ブラックホールの強力な引力によって吸い寄せられた星や星雲が渦(「降着円盤」)を作り、その渦がものすごく明るく光るからです<スタッフだより第92回>。これまで、こうした渦の観測によってブラックホールは100個以上、見つかっています。
また、ブラックホールの周りの星の動きからも、ブラックホールの存在が示唆されますし、2017年にはブラックホールの合体によって生じた重力波が観測されました<スタッフだより第119回>。
これらの間接的な方法に対して、世界中の天文台を繋いで地球サイズの仮想的な望遠鏡を構築し、ブラックホールそのもの、正確には「ブラックホールの影」を直接観測したのが、イベント・ホライズン・テレスコープEHTプロジェクトでした。
「ブラックホールの影」というのは何ですか?
ブラックホールの周りは空間が歪んでいるので、光は真っすぐには進めません。本当なら地球の方に向かってくるはずの光が、ブラックホールの重力に曲げられて、違う方向に向かってしまいます。そのため、地球から観測すると、光の輪に囲まれた黒い領域ができます。これがブラックホールの影「ブラックホール・シャドー」です。
このブラックホールの影が観測されれば、そこにブラックホールがある、という直接的な証拠になります。
ただし、見かけのサイズが最も大きいM87銀河中心のブラックホールや私たちの天の川銀河中心のブラックホールでさえ、影の大きさは、月に置いたテニスボールほどしかありません。地球規模のEHTでもギリギリの挑戦だったのです。
「ブラックホールを見た日」では、EHT日本チームのリーダーとして観測に携わった本間希樹・国立天文台教授にご出演いただき、観測に成功した時の思いなどを語っていただきました。リアルな映像と相まって、臨場感あふれる作品になっています。
また、ナレーションは梶裕貴さんにお願いしました。さわやかな声が、お客様をブラックホールの真の姿に誘います。
最後にひとこと
石坂 学芸員
ブラックホールは1915年に発表されたアインシュタインの一般相対性理論から予言された天体です。アインシュタイン自身は、こんな奇妙な天体は実在しないと考えていましたが、人類は100年かけて、ついに直接撮影に成功しました。今年はアインシュタインがノーベル賞を受賞して100年の記念の年です。当館では企画展「もっと知りたい!アインシュタイン」も開催しています。こちらも併せてご観覧ください。
また、オリジナルミニブック「ブラックホールの秘密」もショップで販売中です。
スタッフだより
- 第150回 ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」
- 第149回 全天周映像作品「ブラックホールを見た日~人類100年の挑戦~」
- 第148回 プラネタリウム「天王星発見240年」
- 第147回 南部陽一郎生誕100周年記念 企画展示「ほがらかに」―南部陽一郎の人生と研究―
- 第146回 プラネタリウム「冬の天の川」
- 第145回 プラネタリウム「HAYABUSA2 ~REBORN」
- 第144回 サイエンスショー「ふしぎな形」
- 第143回 プラネタリウム「火星ふたたび接近中!」
- 第142回 ミニ企画「積み木のルーツ~フレーベル『恩物』」展
- 第141回 プラネタリウム「夜空の宝石箱『すばる』」
- 第140回 いろいろな楽器のグループ分け
- 第139回 サイエンスショー「電池がわかる」
- 第138回 プラネタリウム「星空歴史秘話」
- 第137回 プラネタリウム「木星と土星の世界」
- 第136回 「蜃気楼(しんきろう)」を見てみませんか?
- 第135回 プラネタリウム「宇宙ヒストリア~138億年、原子の旅~」
- 第134回 プラネタリウム。リニューアルの舞台裏
- 第133回 展示場のリニューアル
- 第132回 大阪市立科学館と大阪大学
- 第131回 展示場リニューアル準備 ~気象コーナー~
- 第130回「はやぶさ2」
- 第129回 スペシャルナイト「さよならインフィニウムL-OSAKA」
- 第128回「2018サイエンスサーカス・ツアー・ジャパン」
- 第127回「スーパー磁石で大実験」
- 第126回「科学デモンストレーター10周年」
- 第125回「火星大接近」
- 第124回 サイエンスショー「ふわふわ、きらきら!シャボン玉サイエンス」
- 第123回 プラネタリウム「眠れなくなる宇宙のはなし」
- 第122回 プラネタリウム「はるかなる大マゼラン雲」
- 第121回 サイエンスショー「虹でじっけん、光のせかい」
- 第120回 幼児のための企画展「にじのせかい」
- 第119回 プラネタリウム「ブラックホール合体!重力波」
- 第118回 企画展「大阪市立科学館資料で見るノーベル賞展」
- 第117回 サイエンスショー「マイナス200℃のふしぎ」
- 第116回 プラネタリウム「秋の夜長に月見れば」
- 第115回 「大人も子どもも、紫キャベツ!」
- 第114回 「空を眺めると…~夏の雲はモクモク雲~」
- 第113回 プラネタリウム「木星と土星を見よう」
- 第112回 プラネタリウム「見上げよう!未来の星空」
- 第111回 企画展「石は地球のワンダー~鉱物と化石に魅せられた2人のコレクション~」
- 第110回 プラネタリウム「見えない宇宙のミステリー~謎の光・X線をとらえろ~」
- 第109回 「星図の描き方」
- 第108回 サイエンスショー「静電気なんてこわくない!?」
- 第107回 プラネタリウム解説デビュー裏話
- 第106回 サイエンスショー「ふしぎな形にだまされるな!」
- 第105回 「化学と宮沢賢治」
- 第104回 プラネタリウム「星空オールナイト」
- 第103回 プラネタリウム「火星・土星・冥王星ツアー」
- 第102回 プラネタリウム「ファミリータイム」
- 第101回 この夏は「花火×化学」
- 第100回 プラネタリウム「銀河の世界」
- 第99回 プラネタリウム「星の誕生」
- 第98回 「スーパー磁石で大冒険」
- 第97回 「鉱物の結晶構造」
- 第96回 「だれでもできる!天体写真を写してみよう」
- 第95回 プラネタリウム「ロゼッタ、彗星を探査せよ」
- 第94回 サイエンスショー「フシギな偏光板」
- 第93回 企画展「光とあかり」
- 第92回プラネタリウム「ブラックホール」
- 第91回サイエンスショー「赤青緑の光サイエンス」
- 第90回国際光年協賛「花火の色とひかり展」
- 第89回プラネタリウム「天の川をさぐる」
- 第88回プラネタリウム「ボイジャー太陽系脱出」
- 第87回サイエンスショー「飛ばしてみよう!」
- 第86回 プラネタリウム「オーロラ」
- 第85回 サイエンスショー「バランス大実験」
- 新年のごあいさつ
- 第84回 プラネタリウム「ビッグバン~宇宙ヒストリア~」
- 第83回 サイエンスショー「水の科学」:凍らない水
- 第82回 プラネタリウム「宇宙人をさがす冴えたやり方―沈黙のフライバイ」
- 第81回 「はやぶさ2」 プラネタリウム&企画展について
- 第80回 サイエンスショー「空気パワー」
- 第79回 プラネタリウム「天の川って、なんだろう」
- 第78回 プラネタリウム「月へいこう!~おためし月面生活~」
- 第77回 オーストラリア・パワーハウスミュージアム訪問記(後編)
- 第77回 オーストラリア・パワーハウスミュージアム訪問記(前編)
- 第76回 プラネタリウム「南十字星にあいにいこう」
- 第75回 「都会の星」写真展
- 新年のごあいさつ
- 第74回 サイエンスショー「炎のアツい科学」
- 第73回 プラネタリウム「オーロラ」
- 第72回 企画展「色の彩えんす」まもなく終了
- 第71回 プラネタリウム「宇宙のトップスター」
- 第70回 国際会議で発表
- 第69回 サイエンスショー「マイナス200℃の世界」のご紹介
- 第68回 プラネタリウム2013年夏のプログラム紹介
- 第67回 くうきフシギ発見!~シーオーツーのひみつ~
- 第66回 プラネタリウム「未来の星座を見てみよう」
- 第65回 パンスターズ彗星!
- 第64回 サイエンスショー「サウンド・オブ・サイエンス♪」
- 第63回 『宇宙のハーモニー ~奇跡の地球に生まれて~』 のできるまで
- 第62回 プラネタリウム新プログラム「オーロラ」
- 第62回 プラネタリウム新プログラム「木星」
- 第61回 展示場3階「色の化学」
- 第60回 宇宙に浮かぶ望遠鏡
- 第59回 光のヒ・ミ・ツ
- 第58回 企画展「渋川春海と江戸時代の天文学」を開催します
- 第57回 新スタッフ紹介
- 第56回 プラネタリウム・キッズタイムと新プログラム
- 第55回 金環日食
- 第54回 そらみたことか-気象光学現象について-
- 第53回 電気科学館の思い出
- 第52回 科学デモンストレーターとは何か?
- 第51回 「世界化学年2011」を振り返る
- 第50回 プラネタリウムリニューアルオープン
- 第49回 皆既月食
- 第48回 新展示「風車」登場!
- 第47回 アンドロメダ銀河の正体
- 第46回 花火の化学展
- 第45回 七夕にまつわる新発見!
- 第44回 「蜃気楼」ってなんだろう
- 第43回 新館長よりご挨拶
- 第42回 科学館ミニブック 第2弾!第3弾!登場
- 第41回 世界化学年2011
- 第40回 アジアの星と神話
- 第39回 科学館のおすすめ展示 その2
- 第38回 はやぶさ帰還カプセル展示を終えて
- 第37回 科学館のおすすめ展示 その1
- 第36回 新スタッフ紹介
- 第35回 大型映像を見よう
- 第34回 「はやぶさ」遂に地球へ帰還
- 第33回 科学館もおでかけします
- 第32回 展示場をより楽しむ方法
- 第31回 サイエンスショーができるまで
- 第30回 科学館天文台
- 第29回 モバイルプラネタリウム
- 第28回 宇宙の「謎」を解き明かす
- 第27回 流星群を観察してみませんか?
- 第26回 20周年を迎えて
- 第25回 はじめまして!
- 第24回 「皆既日食」見て来ました!
- 第23回 「7月22日、日食を見よう!」
- 第22回 「広報担当S&Yの試写レポート」
- 第21回 「宇宙がわかる」
- 第20回 「HAYABUSA」公開開始!
- 第19回 「いろいろ集めてます!第2弾」
- 第18回 「世界天文年2009」
- 第17回 「元素がわかる」
- 第16回 「ペルセウス座流星群を見よう!」
- 第15回 「新!展示場 誕生」
- 第14回 「天の川を見よう」
- 第13回 「リニューアルまであと2ヶ月!」
- 第12回 「サイエンスガイドって?」
- 第11回 「137億年の歴史」
- 第10回 「プラネタリウムのライブ解説」
- 第9回 「いろいろ集めてます」
- 第8回 「電気びりびり」
- 第7回 「プラスチック 100年」
- 第6回 「プラネタリウムの今昔」
- 第5回 「結晶の世界」
- 第4回 「密着!学芸員」
- 第3回 「そらみたことか」
- 第2回 「流れ星を追いかける男」
- 第1回 「ほないくで」
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本日のプラネタリウム
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