スタッフだより
第96回 「だれでもできる!天体写真を写してみよう」
2016年1月6日
今回のスタッフだよりでは、「だれでもできる!天体写真を写してみよう」と題して、渡部学芸員に話を聞きました。
テレビ番組の収録で行った山の上で、夜明け前の空を撮影してみました。まんなか右よりに「すばる」が写っています。ミラーレス一眼レフカメラNikon1(古いモデル)を使用(地面にカメラを置いて撮影)
最近は、コンパクトデジカメでも手軽に天体写真が写せるようになってきました。また、いまはやりのアクションカメラでも、工夫次第でおもしろい写真が写せます。カメラを空にむけて、宇宙の思い出をシェアしてみませんか?
だれでも写せます!
まず、天体写真は、だれでも写せます。必要な機材もそれほど高価ではなく、手持ちのものが流用できることも多いです。
高価な一眼レフカメラでなくとも、コンパクトデジカメやスマホ、最近はやりのアクションカメラでも工夫次第でいろいろな写真が写せます。下は、GoProというアクションカメラで撮影した月食の様子です。自動で連続撮影したものを合成しました。合成はフリーソフトでできます。あとで紹介します。
科学館屋上で撮影した月食の様子。アクションカメラGoProを使用。月が昇る途中で暗くなって明るくなるのがわかります。100コマを合成しています(三脚使用)
ふつうに写すとうまくいきません。カメラのコンピュータが混乱するからです。
次に、天体写真を撮影するのは、ふつうの写真とはちがいます。それをわかっていないと、思うような写真が撮れません。ピンぼけになったり、ブレたり、やたら暗すぎたり、逆に明るすぎたりします。思うようにならないので、あきらめてしまう。そんなことが多いかなと思います。いちばんカンタンな月の写真でも、なかなかうまくいきません。
それは、あなたの腕が悪い、のではありません。カメラが天体写真を写すことをわかっていないからです。
30年くらい前から、カメラはピント(フォーカス)や露出など、ほとんどのコントロールを自動でやるようになりました。オートフォーカス(AF)、オート露出(AE)ですね。おかげで撮影者は、構図だけを考えればよくなったのですが、落とし穴がありました。カメラの自動というのは、ふつうの写真にあわせています。ふつうの写真というのは、1)明るいところで、構図のなかで2)大きく見える人物や風景を撮影するものです。その光をセンサーがとらえて、カメラに搭載されたコンピュータが最適なセッティングをします。
ところが、天体写真は、1)暗い背景で、2)小さく写る星や月が対象です。これは、カメラのコンピュータが混乱してしまうのです。では、どうしたらいいのでしょうか?
解決策はいくつかあります。
解決策いろいろ
1.夜景モードで写してみる
夜景は、星と同じく、暗い背景に光が点々となる様子です。夜景モードは、カメラにあらかじめそういうものを写すと教えてあげることで、コンピュータが常識を変えてセッティングをしてくれます。月や明るい星の写真は、これでうまくいくことがあります。試してみる価値はありますね。スマホの夜景モードで撮影した写真です。
夜明け前、出張で移動のさいにちょっと写してみた。スマホ使用(手持ち撮影)
2.マニュアルモードで写してみる
マニュアルモードというのは、カメラのコンピュータを使わず、つまりAFやAEを使わないで撮影するものです。高級な一眼レフカメラには必ずあります。安価なカメラやスマホでもある場合がありますので、自分のカメラの取り扱い説明書を確認してみてください。
当然、ピントや露出は人間が指示する必要があります。ポイントは3つです。
〈1〉ピントをMF(マニュアルフォーカス)にし、無限大(∞)にする。星は無限の彼方にあります。
〈2〉感度(ISO感度)を1600以上にする
〈3〉露出を8分の1秒から4秒くらいまでいろいろ試してみる
3.星空が写せるというカメラを使い、星空モードを使う
カメラの中には「星空モード」があるものがあります。たとえばキヤノンのS120というコンパクトデジカメは星空モードがあるのを売りにしていました。これを使うと適当に写しても星空が写ります。上のマニュアルモードの3つを強制的にセットするモードです。撮影例は下の通りです。
星空モードがあるコンパクトデジカメで撮影したオリオン座とすばる。大阪郊外で撮影。星座の形から星の色までカンタンに撮影できる(三脚使用)
もう一つのコツ。三脚を使おう
ここまで撮影した写真のキャプションに(手持ち撮影)とか(三脚使用)と書いてあるのに気がつかれたかと思います。で、三脚使用のものはよく見るとぶれていません。そう、三脚を使って、カメラを固定すると、星の写真は格段によく写るのです。スマホ用の三脚もありますので、ぜひ試してみてください。
また、三脚があると、カメラを屋外にセットしておいて、タイマー撮影することも可能になってきます(一眼レフカメラや高級カメラだと可能です)。盗難や事故の危険性が少ないベランダ等にカメラをおいて、自分が寝ている間に撮影するのもよいですね。そうして写したのが下の写真です。夜明け前に時間をセットし、カメラに撮影してもらいました。
ベランダにミラーレス一眼レフカメラPentaxQ10をセットし、タイマー機能を使って夜明け前の惑星の集合を撮影。文字はパソコンの画像ソフトであとから入れました(三脚使用)。
合成して楽しむ
ちょっとだけハードルがあがりますが、パソコンがあると、写真を合成する楽しみが加わります。三脚などにカメラを固定して、連続的に写真を撮影し、それを合成するのです。ただし、単純に合成すると、うまくいきません。背景の薄明かりが蓄積されて、真っ白になってしまいます。
そこで、ちょっと専門的になりますが「比較明合成」というテクニックを使います。これは専用のフリーソフト(SiriusCompとかKikuchi Magickなど)がありますので、それを使って見るのがよいでしょう。ちなみにカメラにあらかじめ比較明合成の機能があるものもあります(たとえば、星空モードがあるS120など)。
比較明合成ソフトSiriusCompで、作成した合成写真。雲40コマを合成。雲がひっきりなしにきたが真っ白にならず、切れ切れに見えた星がちゃんと写っている(三脚使用)
星空モードがあるカメラS120に内蔵の「比較明合成(星空軌跡モード)」を使用して撮影前景は月に照らされた東京大学の木曽観測所(三脚使用)
最後にひとこと
渡部義弥学芸員
この2年ほど、できるだけ手軽に天体写真を写すために色々テストをしてきました。それでわかったのは、ハードルがかなり下がっているということです。特に、かつてのフィルムカメラの時代には難しかった、多数のコマを撮影したり、手持ちで星を撮影することも手軽にできるようになっています。パソコンの普及もあり、合成という楽しみもあります。都会で星を写すのもかんたんになっているのです。 ちょっとの知識とカメラ、できれば三脚があれば、天体写真は十分楽しめます。色々と試してみませんか? 私もちょっとした天体写真を写すことで星の解説や展示にふくらみをもたせようと思っています。 渡部義弥のホームページ
スタッフだより
- 第150回 ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」
- 第149回 全天周映像作品「ブラックホールを見た日~人類100年の挑戦~」
- 第148回 プラネタリウム「天王星発見240年」
- 第147回 南部陽一郎生誕100周年記念 企画展示「ほがらかに」―南部陽一郎の人生と研究―
- 第146回 プラネタリウム「冬の天の川」
- 第145回 プラネタリウム「HAYABUSA2 ~REBORN」
- 第144回 サイエンスショー「ふしぎな形」
- 第143回 プラネタリウム「火星ふたたび接近中!」
- 第142回 ミニ企画「積み木のルーツ~フレーベル『恩物』」展
- 第141回 プラネタリウム「夜空の宝石箱『すばる』」
- 第140回 いろいろな楽器のグループ分け
- 第139回 サイエンスショー「電池がわかる」
- 第138回 プラネタリウム「星空歴史秘話」
- 第137回 プラネタリウム「木星と土星の世界」
- 第136回 「蜃気楼(しんきろう)」を見てみませんか?
- 第135回 プラネタリウム「宇宙ヒストリア~138億年、原子の旅~」
- 第134回 プラネタリウム。リニューアルの舞台裏
- 第133回 展示場のリニューアル
- 第132回 大阪市立科学館と大阪大学
- 第131回 展示場リニューアル準備 ~気象コーナー~
- 第130回「はやぶさ2」
- 第129回 スペシャルナイト「さよならインフィニウムL-OSAKA」
- 第128回「2018サイエンスサーカス・ツアー・ジャパン」
- 第127回「スーパー磁石で大実験」
- 第126回「科学デモンストレーター10周年」
- 第125回「火星大接近」
- 第124回 サイエンスショー「ふわふわ、きらきら!シャボン玉サイエンス」
- 第123回 プラネタリウム「眠れなくなる宇宙のはなし」
- 第122回 プラネタリウム「はるかなる大マゼラン雲」
- 第121回 サイエンスショー「虹でじっけん、光のせかい」
- 第120回 幼児のための企画展「にじのせかい」
- 第119回 プラネタリウム「ブラックホール合体!重力波」
- 第118回 企画展「大阪市立科学館資料で見るノーベル賞展」
- 第117回 サイエンスショー「マイナス200℃のふしぎ」
- 第116回 プラネタリウム「秋の夜長に月見れば」
- 第115回 「大人も子どもも、紫キャベツ!」
- 第114回 「空を眺めると…~夏の雲はモクモク雲~」
- 第113回 プラネタリウム「木星と土星を見よう」
- 第112回 プラネタリウム「見上げよう!未来の星空」
- 第111回 企画展「石は地球のワンダー~鉱物と化石に魅せられた2人のコレクション~」
- 第110回 プラネタリウム「見えない宇宙のミステリー~謎の光・X線をとらえろ~」
- 第109回 「星図の描き方」
- 第108回 サイエンスショー「静電気なんてこわくない!?」
- 第107回 プラネタリウム解説デビュー裏話
- 第106回 サイエンスショー「ふしぎな形にだまされるな!」
- 第105回 「化学と宮沢賢治」
- 第104回 プラネタリウム「星空オールナイト」
- 第103回 プラネタリウム「火星・土星・冥王星ツアー」
- 第102回 プラネタリウム「ファミリータイム」
- 第101回 この夏は「花火×化学」
- 第100回 プラネタリウム「銀河の世界」
- 第99回 プラネタリウム「星の誕生」
- 第98回 「スーパー磁石で大冒険」
- 第97回 「鉱物の結晶構造」
- 第96回 「だれでもできる!天体写真を写してみよう」
- 第95回 プラネタリウム「ロゼッタ、彗星を探査せよ」
- 第94回 サイエンスショー「フシギな偏光板」
- 第93回 企画展「光とあかり」
- 第92回プラネタリウム「ブラックホール」
- 第91回サイエンスショー「赤青緑の光サイエンス」
- 第90回国際光年協賛「花火の色とひかり展」
- 第89回プラネタリウム「天の川をさぐる」
- 第88回プラネタリウム「ボイジャー太陽系脱出」
- 第87回サイエンスショー「飛ばしてみよう!」
- 第86回 プラネタリウム「オーロラ」
- 第85回 サイエンスショー「バランス大実験」
- 新年のごあいさつ
- 第84回 プラネタリウム「ビッグバン~宇宙ヒストリア~」
- 第83回 サイエンスショー「水の科学」:凍らない水
- 第82回 プラネタリウム「宇宙人をさがす冴えたやり方―沈黙のフライバイ」
- 第81回 「はやぶさ2」 プラネタリウム&企画展について
- 第80回 サイエンスショー「空気パワー」
- 第79回 プラネタリウム「天の川って、なんだろう」
- 第78回 プラネタリウム「月へいこう!~おためし月面生活~」
- 第77回 オーストラリア・パワーハウスミュージアム訪問記(後編)
- 第77回 オーストラリア・パワーハウスミュージアム訪問記(前編)
- 第76回 プラネタリウム「南十字星にあいにいこう」
- 第75回 「都会の星」写真展
- 新年のごあいさつ
- 第74回 サイエンスショー「炎のアツい科学」
- 第73回 プラネタリウム「オーロラ」
- 第72回 企画展「色の彩えんす」まもなく終了
- 第71回 プラネタリウム「宇宙のトップスター」
- 第70回 国際会議で発表
- 第69回 サイエンスショー「マイナス200℃の世界」のご紹介
- 第68回 プラネタリウム2013年夏のプログラム紹介
- 第67回 くうきフシギ発見!~シーオーツーのひみつ~
- 第66回 プラネタリウム「未来の星座を見てみよう」
- 第65回 パンスターズ彗星!
- 第64回 サイエンスショー「サウンド・オブ・サイエンス♪」
- 第63回 『宇宙のハーモニー ~奇跡の地球に生まれて~』 のできるまで
- 第62回 プラネタリウム新プログラム「オーロラ」
- 第62回 プラネタリウム新プログラム「木星」
- 第61回 展示場3階「色の化学」
- 第60回 宇宙に浮かぶ望遠鏡
- 第59回 光のヒ・ミ・ツ
- 第58回 企画展「渋川春海と江戸時代の天文学」を開催します
- 第57回 新スタッフ紹介
- 第56回 プラネタリウム・キッズタイムと新プログラム
- 第55回 金環日食
- 第54回 そらみたことか-気象光学現象について-
- 第53回 電気科学館の思い出
- 第52回 科学デモンストレーターとは何か?
- 第51回 「世界化学年2011」を振り返る
- 第50回 プラネタリウムリニューアルオープン
- 第49回 皆既月食
- 第48回 新展示「風車」登場!
- 第47回 アンドロメダ銀河の正体
- 第46回 花火の化学展
- 第45回 七夕にまつわる新発見!
- 第44回 「蜃気楼」ってなんだろう
- 第43回 新館長よりご挨拶
- 第42回 科学館ミニブック 第2弾!第3弾!登場
- 第41回 世界化学年2011
- 第40回 アジアの星と神話
- 第39回 科学館のおすすめ展示 その2
- 第38回 はやぶさ帰還カプセル展示を終えて
- 第37回 科学館のおすすめ展示 その1
- 第36回 新スタッフ紹介
- 第35回 大型映像を見よう
- 第34回 「はやぶさ」遂に地球へ帰還
- 第33回 科学館もおでかけします
- 第32回 展示場をより楽しむ方法
- 第31回 サイエンスショーができるまで
- 第30回 科学館天文台
- 第29回 モバイルプラネタリウム
- 第28回 宇宙の「謎」を解き明かす
- 第27回 流星群を観察してみませんか?
- 第26回 20周年を迎えて
- 第25回 はじめまして!
- 第24回 「皆既日食」見て来ました!
- 第23回 「7月22日、日食を見よう!」
- 第22回 「広報担当S&Yの試写レポート」
- 第21回 「宇宙がわかる」
- 第20回 「HAYABUSA」公開開始!
- 第19回 「いろいろ集めてます!第2弾」
- 第18回 「世界天文年2009」
- 第17回 「元素がわかる」
- 第16回 「ペルセウス座流星群を見よう!」
- 第15回 「新!展示場 誕生」
- 第14回 「天の川を見よう」
- 第13回 「リニューアルまであと2ヶ月!」
- 第12回 「サイエンスガイドって?」
- 第11回 「137億年の歴史」
- 第10回 「プラネタリウムのライブ解説」
- 第9回 「いろいろ集めてます」
- 第8回 「電気びりびり」
- 第7回 「プラスチック 100年」
- 第6回 「プラネタリウムの今昔」
- 第5回 「結晶の世界」
- 第4回 「密着!学芸員」
- 第3回 「そらみたことか」
- 第2回 「流れ星を追いかける男」
- 第1回 「ほないくで」
開館日カレンダー
■は休館日です
本日のプラネタリウム
残席情報
本日のプログラムは終了しました。
- 所要時間
- 約45分間
お客様の安全のため、途中入場できません。
ブラウザを更新してご確認ください