スタッフだより

第44回 「蜃気楼」ってなんだろう

2011年5月17日

みなさんは、「蜃気楼」を見たことがありますか?幻想的なイメージのある「蜃気楼」。いったいどんなものなのでしょうか。今回は物理が専門の長谷川学芸員に「蜃気楼」について話を聞きました。

では、まず「蜃気楼 (しんきろう) 」ってなんですか?

「春になると富山で蜃気楼が見られました」という話題がニュースなどで流れることがあります。蜃気楼は、春の天気のいい風の穏やかな日に見られる空気の屈折率のイタズラなのです。
蜃気楼が「発生」するとか「出現」すると言ったりもしますが、何も存在しなかったところに蜃気楼という「モノ」が現われるのではなく、蜃気楼はふだんから見えていたものが大きく変形して見える現象です。

この写真は富山県の魚津というところで見られる典型的な蜃気楼で、魚津から10kmほど離れた生地というところの景色です。一番下の写真がふだんの状態で、蜃気楼が発生すると上の3枚の写真のように、一部が上下に伸びたり、一番上の写真では堤防の間に海が入り込んでいるように見えています。

蜃気楼はどうやって発生するのですか?

蜃気楼は、海面近くに冷たい空気の層、さらにその上に暖かい空気の層ができることで見えます。空気は冷たい方が屈折率が少し大きいので、その境界で光がわずかに曲がるために、遠くの景色が変形して見えるのです。
逆に、海面近くの空気の方が暖かい場合には、景色が下に映ったように見えます。島が宙に浮かんだように見えることもあるので「浮島現象」と呼ばれています。晴れた日にはよく見られる現象で、蜃気楼のように珍しくはありません。また浮島現象とよく似たものでは、夏の暑い日に道路の上に水たまりがあるように見える「逃げ水」という現象もあります。

「逃げ水」という現象 

「浮島現象」

蜃気楼が大阪でも見えるんですか?

蜃気楼は富山県、特にその中でも魚津というところでよく見られるのですが、ここ10年あまりの間に、あちこちで蜃気楼が見えることがわかってきました。大阪の近くでは大津など琵琶湖畔で、その他にも福島県の猪苗代湖畔、小樽など北海道各地でも、毎年数回~十数回、蜃気楼が発生しています。とはいえ、どこででも見える現象ではなく、蜃気楼は珍しい現象なのです。
そして、一昨年、大阪湾でも蜃気楼が発生していることがわかりました。しかし、蜃気楼が発生しそうな春の天気のいい風の穏やかな日に、たびたび蜃気楼の観測に行くわけにはいきません。そのため、昨年は一度も大阪湾で蜃気楼の発生を確認できませんでした。
そこで今年は、大阪南港野鳥園に蜃気楼観測用のカメラを設置させていただいています。これで常時観測ができるようになり、既に4月6日、4月17日、5月5日、5月7日の4回、蜃気楼の発生をとらえています。

野鳥園からのふだんの景色 

野鳥園から見えた蜃気楼

蜃気楼観測カメラってどんなものなのですか?

カメラといっても、パソコンにつなぐことができるUSBカメラというもので、レンズを取り替えられるタイプのものです。望遠レンズを取り付けたカメラを2台、パソコンにつないで、1台は野鳥園から西方向の神戸空港・明石海峡大橋方面、もう1台は南西方向の淡路島方面に向けています。

蜃気楼観測カメラ

撮影した写真は、自動的に科学館へ送り、それをこちらのページで見られるようにしています。ところが、何かのトラブルで写真が送られてこなくなるということが起こりました。手元にあるパソコンなら、ちょっとさわれば何とかなりますが、何が起こっているのかすらわかりません。その度に片道1時間弱かけて野鳥園まで行かなければなりませんでした。なんとか対応策をたて、今ではだいたい毎日、ちゃんと写真を送ってきてくれるようになっています。

最後にひとこと


長谷川 学芸員

こうして、居ながらにして蜃気楼観測ができるようになりましたが、蜃気楼が見えそうな日には、みなさんも大阪南港野鳥園まで行ってみませんか?野鳥園は、朝9時~夕方5時までで入園無料、水曜休園です。蜃気楼が見えなくても、いろいろな野鳥を見ることができますので、ぜひ行ってみてください。 長谷川能三のホームページ

 

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