第105回 「化学と宮沢賢治」
2016年10月2日
今回のスタッフだよりは、宮沢賢治生誕120年記念企画展「化学と宮沢賢治」の企画制作を担当した小野学芸員に話を聞きました。今年2016年は、作家の宮沢賢治が生まれてから、120年にあたります。還暦2回分で切りのいい数字かなというものありましたので、宮沢賢治さんを取り上げ、化学と絡めて企画展をすることにしました。残念ながら、賢治さんは、還暦を迎えることもなく37歳の若さで亡くなっていますが…。
なぜ、「化学」と「宮沢賢治」なのでしょうか?

賢治さんは、盛岡高等農林学校(現岩手大学)で農芸化学を学びます。そしてそこでは、国内の科学の本としては、最良と呼ばれた「化学本論」という化学の教科書で化学を学び、卒業論文が「腐植質中ノ無機成分ノ植物二対スル価値」という、腐植質と呼ばれる物質の中のカリウムやリンが、当地では肥料としてあまり有効でないことを書いています。
賢治さんは、化学だけでなく科学全般に興味があり、天文、鉱物、植物など自然科学にも深く興味を持ち、相当な知識を有していますが、特に化学については、より専門的に学んでいるのです。そのためか、化学に関する言葉が作品や詩の中に多用されています。
これまで、賢治さんの作品からヒントを得て、作品そのものの展示会や、天文の話題で、プラネタリウムの作品、鉱物関係の展示会などが各地でありましたが、賢治さんと「化学」を取り上げて、展示をするの全国初のことです。
賢治「こんなことは実に稀です。」
作品の中の化学とは?
宮沢賢治の作品には、化学に関する用語が600語以上出てきます。これは、彼が書き残した手紙の中の文言も含めた数字です。その中には、加里球、ソックスレット、リーッビヒ管など実験器具の名前がそのまま出てくる詩もあり、そこまで書き記すかというような詩もあります。詩には、作り手と読み手の間にある程度の余白があって、そこに読み手側が作者の言いたいことを想像する、もしくは読み手の思いを重ねるというのが多いと思います。賢治さんの詩も基本的にはそうですが、リアルな実験道具の名称が出てきたとき、それが何かというのを知っていると、いくらか賢治さんの思いを知ることができるのではないかと思います。今回の企画展では、そのように、作品中の化学を取り上げ紹介しておりますので、作品読解の一助にもなのではないかと思います。宮沢賢治の作品は難しいし、化学も難しいと思う方もいらっしゃると思いますが、大丈夫です。賢治さんもこう言っています。
賢治「なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。」
展示資料を紹介してください。
今回の企画展では、賢治さんが作家であることから、実物資料は、主に化学系の物になります。賢治さんの作品中に出てくる元素は45種類。これらもできるだけ多く展示するようにしてますし、実験道具では、カリ(加里)球といった今では見ることのできない実験道具も展示します。このカリ球は19世紀のドイツの化学者リービッヒが開発した有機物の炭素量を分析するもので、それまで24時間かかっていた分析時間を1/20まで短縮することができたと言われる装置だそうです。
他にも「三人兄弟の医者と北守将軍[散文形]」という作品があります。これは、最終的には「北守将軍と三人兄弟の医者」という作品になっていますが、「三人兄弟の医者と北守将軍[散文形]」にはキップの装置というものも出ており、それも展示します。
そして賢治さんが、書いた卒業論文「腐植質中ノ無機成分ノ植物二対スル価値」(複製)や「雨ニモマケズ」手帳(複製)、彼が書いた「教育絵図」という科学に関する図(複製)を展示しています。

最後にひとこと

小野昌弘学芸員
賢治さんが、見たり、知った化学の一面を皆様に見ていただき、彼がどのようにそれを作品の中に用いたのか、ぜひご覧ください。
あ、お二方からも、コメントが
賢治「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
「あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。
あした、おもしろいてんじありますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。」 山ねこ 拝