スタッフだより

第127回「スーパー磁石で大実験」

2018年8月3日

今回のスタッフだよりは、サイエンスショー「スーパー磁石で大実験」の企画・制作を担当した大倉学芸員に話を聞きました。

スーパー磁石ってなんですか?

スーパー磁石とは、ネオジム磁石のこと。最近では百円ショップでも強力磁石という名前で小さなものが売られています。銀色をした非常に強い磁石です。
 ショーの始まりでは、ネオジム磁石の他にもいくつかの種類の磁石をご紹介しています。まずは、いろいろなところで使われている黒色をしたフェライト磁石。フェライトとは、酸化鉄のこと。安価で優れた磁石です。強さもそこそこです。ほんとにいろいろなところで使われていて、例えば冷蔵庫やホワイトボードでメモを止めるのに使われていたり、ゴム磁石はゴムにフェライトが練りこまれたものですし、ビデオテープやカセットテープが黒色や茶色なのは、フェライトの色なのでした。
 次に紹介するのは銀色をしたアルニコ磁石。鋼鉄の中にアルミとニッケルとコバルトが添加されたものなのでアルニコと呼ばれています。学校の理科実験でも良く使われている磁石です。
 そして、今回の主役のスーパー磁石(ネオジム磁石)。1984年に佐川眞人さんによって発明された、現在でも最強の磁石です。実は、フェライト磁石もアルニコ磁石の元となったMK鋼と呼ばれる素材(当時世界最強の磁石)も日本で開発されたものでした。日本は磁石大国なのですね。
 ネオジム磁石は「強力磁石」という名前で百円ショップでも売られていますが、それを1万個集めたくらいの10センチ角の立方体のネオジム磁石を使って実験をします。

磁石を破壊する??!

 はい。磁石とはどんなものなのかを調べるため、フェライト磁石をハンマーで叩いて粉々にします。砕いても1個1個はN極とS極がある立派な磁石です。ちゃんとホワイトボードにもくっつきます。これをたくさん集めてお団子のような形状を作り、スーパー磁石の上に置いてみましょう。なんと!お団子の形があっという間にゴジラのしっぽのようなトゲトゲに変身してしまいました。何にたとえたらいいのでしょう?いがぐり、はりねずみ、、、学芸員は、ウニと読んでいます。スーパー磁石はN極が上を向いているから、ウニの根元(小さな磁石の破片のそれぞれ)がS極になっています。そして、ウニのトゲの尖端はN極になります。N極どうしは反発するのでお互い離れようとしてウニのトゲのように広がるのでした。
 さて磁石の破片で作ったお団子状のものにクリップに近づけるとどうなるでしょう?ふしぎなことに全然クリップを引き寄せません。ところが、スーパー磁石でウニ状態にしてから近づけるとたくさんくっつきます。
 磁石の破片をたくさん集めて団子状にしたものは、お団子の中でひとつひとつの磁石がばらばらの向きを向いていて、全体を眺めるとどこがN極ともS極とも言いにくい状態です。こうなってしまうと磁石の性質(離れたところから鉄を引き付ける性質)が現れなくなってしまうのです。

では、なぜ鉄しか磁石につかないのでしょう?

ひもの付いたカップにウニ状態になった磁石の破片を入れ、スーパー磁石に近づけると、離れたところから引き寄せられます。これは、スチール缶がスーパー磁石にひかれるのにそっくりです。磁石と違いスチール缶は、もちろんクリップを引き付けませんが、スーパー磁石にひきつけられている状態でのスチール缶は、同じようにクリップをひきつけないでしょうか?
 試してみると引き付けます。スチール缶だけでなく、スプーンでやっても同じことができますし、スーパー磁石の傍では、スプーンどうしをくっつけることもできます。
 なぜ、こんなことが起るのでしょう?スーパー磁石のつくる強力な磁場の中で、鉄が磁石に変身してしまうからなのです(磁化するといいます)。磁石の破片がクリップを引き寄せたり、引き寄せなかったり、という現象を観察しました。まさにそれと同じ変化が鉄の中で起こっていたのです。
 鉄はバラバラの向きを向いた小さな磁石の集まりと見なせます。実際に小さな磁石の動きを見ることはできませんが、磁石の破片と同じようなことが鉄の中でも起こり、鉄全体が大きな磁石になってしまうのです。
 これが鉄が磁石にくっつく理由です。磁石の材料は鉄なのですが、鉄から磁石が作れるのも同じ理由です。紙や木やプラスチック、銅やアルミニウムは、その中に小さな磁石をもっていません。そのため磁石にくっつかないのです。

最後にひとこと


大倉 宏学芸員

ひとつ分かるとわからないことがもっと増える

鉄しか磁石につかないのは、鉄が小さな磁石だったからでした。ですが、鉄から作られるステンレスは磁石につかないものがありますし、錆びた鉄も磁石につきません。どうしてでしょう。
 物質を小さく小さく分けていくと「原子」という単位に突き当たります。実は鉄原子は磁石の性質を帯びているのです。しかし、たくさん集めても向きがバラバラでは磁石の性質が発揮できません。鉄原子どうしが周りと協力し合って向きを揃える「自発磁化」という現象があるのです。
 自発磁化は「自発的対称性のやぶれ」という現象のひとつです。この現象を発見した南部陽一郎博士は2008年ノーベル物理学賞を受賞し、関係する展示が科学館4階にあります。鉄原子どうしが周りと協力し合って向きを揃えるのは、髪の毛の太さサイズまで。それ以上には大きくなりません。それが小さな磁石の正体だったのです。
 磁石につかない鉄は、小さな磁石をつくらないのでしょうか?そもそもなぜ小さな磁石ができるのでしょうか?なぜ髪の毛のサイズまで?スーパー磁石は小さな磁石の向きが揃ったままの大きな塊なのでしょうか?いろんな疑問が湧いてくると思います。そのいくつかの答えは展示場の中に見つけることができるでしょうし、いくつかは学者でさえ答えられないものもあるでしょう。
 科学は、何かが分かると新たな疑問が次々と湧いてくるものです。それをまたひとつひとつ調べていくことで発展していくものなのです。科学で一番大事なのは、いい疑問を持つことです。

もうひとこと

 齋藤館長が、鉄と磁石について解説したミニブックを売店で販売していてます。サイエンスショーを見たり、本稿で興味を持った人は、読むと理解が深まるでしょう。

大倉宏のホームページ


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